スポーツ指導者に必要な生理学と運動生理学の知識

book0042

スポーツ指導者に必要な生理学と運動生理学の知識

(book0042)

体育・スポーツ・健康科学テキストブックシリーズ

編著者

村岡  功  早稲田大学スポーツ科学学術院教授

著者

赤間 高雄 早稲田大学スポーツ科学学術院教授
家光 素行 立命館大学スポーツ健康科学部准教授
井澤 鉄也 同志社大学スポーツ健康科学部教授
内田  直 早稲田大学スポーツ科学学術院教授
大築 立志 東京大学名誉教授
岡田 純一 早稲田大学スポーツ科学学術院准教授
彼末 一之 早稲田大学スポーツ科学学術院教授
北川  薫 中京大学スポーツ科学部教授
鈴木 克彦 早稲田大学スポーツ科学学術院准教授
田畑  泉 立命館大学スポーツ健康科学部教授
内藤 久士 順天堂大学スポーツ健康科学部教授
林  直亨 九州大学健康科学センター准教授
広瀬 統一 早稲田大学スポーツ科学学術院准教授
(五十音順)

書籍データ

【発行日】 2013年3月15日
【判型】 B-5
【ページ数】 196
【図表】 図表211

目次はこちらからご覧ください

運動やスポーツ活動に積極的に関わる保健体育科の教員は,スポーツ活動における競技力向上やスポーツ活動における健康増進に重要な役割を果たす存在である。一方、保健体育科の教員養成においては、生理学と運動生理学がそれぞれ独立して取り上げられてきたのが実情であり、そのため両科目間で必ずしも一貫性が無く、「保健体育」に必要な生理学と運動生理学の知識が十分に伝わっていない可能性も考えられる。本書は保健体育教員免許取得のための授業や保健体育科教員のためだけでなく スポーツに関わるコーチ、トレーナーおよびスポーツ栄養や健康運動の指導者にとって有益な「生理学と運動生理学」の知識を1冊にまとめた。

はじめに

生理学(Physiology:身体の学問)は、生命現象を対象としてそのメカニズムを解明する学問である。生命現象とは生命あるものに関連して起こる諸々の現象(呼吸、循環、消化、吸収、排泄、感覚、内分泌、生殖など)のことであり、その共通の特質として、①絶えず物質ならびにエネルギー交代を伴う、②成長や老化に伴って形態的に変化する、③生殖あるいは増殖によって子孫を次代に残す、④置かれた環境に対して適応する能力(環境適応性)を持つ、⑤外部環境の変化に対して内部環境を一定に保とうとする(恒常性保持作用;ホメオスターシス)、などを挙げることができる。また、メカニズムとはその仕組みあるいはある現象を構成している要素と要素との関連性を指す。このように、生理学とは、生命あるものがどのような仕組みによってそれを維持しているのかを解明する「身体の学問」であり、医学における基礎分野として非常に古くから発展してきた。

一方、生理学が一般に静的(安静)状態での生命現象を対象としているのに対して、運動生理学(Exercise Physiology)は、主に動的(運動)状態での生命現象を対象としている。つまり、運動生理学は一過性の運動に対する生体の応答と、規則的な身体活動による生体の適応を明らかにする学問であるといえる。運動生理学の発展は生理学と比べると新しく、1940年代以降に本格的に研究が行われるようになったが、近年では広く社会からも注目されるようになっている。

この背景には、主に2つのことが関わっているように思われる。その1つは、1950年代に入ると、運動不足と健康阻害との関連が注目されるようになり、この問題を解決するために運動生理学を中心として研究が進められてきたことである。第2に、オリンピック等の国際大会で活躍するためには、指導者や選手の経験だけに頼るのではなく、運動生理学を中心とした科学的なバックアップが必要とされたことを挙げることができる。

中学生および高校生の頃は、骨格筋機能や呼吸循環系機能が急激に発達するとともに、様々な運動やスポーツ活動に積極的に関わる時期でもある。保健体育科の教員は、まさにこの時期の子ども達に対して、いかに健全に育成するか、スポーツ活動における競技力を向上させるかについて重要な役割を果たす存在である。そのためには、安静および運動状態での生命現象の仕組みを理解することが重要であるといえる。しかし、これまでの保健体育科の教員養成においては、生理学と運動生理学がそれぞれ独立して取り上げられ、それぞれ別のテキストが使用されてきたというのが実情である。そのため両科目間で必ずしも一貫性が無く、「保健体育」に必要な生理学と運動生理学の知識が十分に伝わっていない可能性も考えられる。

近年、大学における「教育の質保証」が問われるようになったが、保健体育科教員を目指す人々に対しても同様のことが求められている。また、「保健体育」の学習指導要領が最近になって改正されたこともあり、これらのことから、この度、「保健体育」を学ぼうとする学生および中・高校で「保健体育」を教える教員にとって必要な「生理学と運動生理学」の知識を1冊にまとめた本書を上梓することとした。

本書は「Ⅰ.スポーツ指導者に必要な生理機能に関する知識」と「Ⅱ.保健体育科に必要な健康・体力や運動実践に関わる知識」から構成されている。Ⅰでは、運動・スポーツと関連深い生理機能(骨格筋、神経、内分泌、免疫、呼吸、循環)について、生理学と運動生理学の知識をまとめて示すことで、「体育分野」における運動の仕組み等に対応出来るようにした。また、Ⅱでは、「保健分野」における健康、生活習慣病、応急手当、体力とトレーニング、水分摂取、スポーツ外傷・障害およびアンチドーピングに関わる問題を網羅した内容となっている。そのため、本書は保健体育科教員だけではなく、競技スポーツや健康スポーツと関わるコーチ、トレーナーおよびスポーツ栄養や健康運動の指導者にとっても有益なものになっている。執筆にはそれぞれの分野で活躍しているわが国の第一人者が当たっており、読者には最新の知識を得るために本書を積極的に利用して戴くことを願うものである。

2012.11
編著 村岡 功

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