子どものこころとからだを強くする

book0014

子どものこころとからだを強くする

(book0014)

編著者

山地 啓司

書籍データ

【発行日】 2005年4月23日
【判型】 B-5
【ページ数】 234
【図表】 179

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はしがき

アテネ五輪での日本人選手の活躍は目を見張るものがあった。水泳の北島選手は勝って当たり前というストレスを打ち破っての完勝であり、男子体操団体では、各選手が最高の演技を披露してのうれしい金メダルであった。日本選手の鍛えられたパワーと高度な技術だけでなくだけ、精神的タフさ(強さ)を印象づけた大会でもあった。かつて作家の大宅壮一氏は日本人を “テンション民族” 称し、大舞台に弱いのは日本人の特性である、といった。しかし、今回のオリンピックを見る限り、精神的弱さは影を潜めた。その一方で、国際教育到達度評価委員会(IEA)が行った、世界の小学4年と中学2年を対象にした「国際数学・理科教育動向調査」では、いずれの学年も10年前に比べて約10点低下(全体の平均得点を500点とする)し、確実に理数科離れ、学力低下が進行していることを実証した。 このようにみてくると、現代の子どもの体力や精神力(気力)は強化され、知力は低下したような印象を与える。しかし、子どもの体力は平成年に入って確実に低下モードに入ってしまった。現在の子どもの知力と体力は”勉強する子としない子”、”運動する子としない子”の二極化が、”勉強できる子とできない子””体力がある子とない子”の二極化に拍車をかけている。その結果がオリンピックで活躍する選手を出したり、理数科の平均得点の低下として顕在化したといえる。
子どもの問題はただ学力や体力だけではなく、これまで問題にされてきた不登校、陰湿ないじめ、学内・家庭内暴力、非行や凶悪犯罪の低年齢化、学級崩壊、コミュニケーション不適応者やストレス性体調不良者の増加等々の徳力の低下も懸念される。その一方で、地震や水害で困っている人があれば、悲しみや困難を自分のものと受け止め、ボランティア活動に馳せ参じる大勢の頼もしい若者がいる。こんなことを考えると徳力も二極化が進行しつつあると思える。
「脳の革命」の著者、春山氏は、生きるために必要な行動の命令を司る脳幹(中脳、橋、小脳、延髄等)を”ヘビの脳”、感情を支配する大脳辺縁系を”ネコの脳”、そして物事を理知的に考え行動する働きをする大脳皮質を”ヒトの脳”と称した。元東大教授の故猪飼道夫先生は春山氏がいう”ヘビの脳”を、生命維持や種の保存本能、防衛本能に従った行動を司ることから”生きる力”といい、”ネコの脳”を喜怒哀楽などの情感から行動する徳力や気力を司ると考え”たくましく生きる力”、そして”ヒトの脳”を、さらに高度な知的活動を伴う知力を司るとし”よく生きる力”であるとした。したがって、ヒトの大脳は3つの構造から形成され、この3つが相互にバランスよく機能することによって、より洗練された”よく生きる力”を構築するとみなした。ただこの3つの構造の中”ヘビの脳”と”ネコの脳”は生まれる前から遺伝子の中にソフトが組み込まれたハードウエアである。いわゆるほぼ完全な脳であるのに対して”ヒトの脳”は後天的にソフトを開発していかねばならない、不完全な脳といえる。教育とはこの不完全な脳に新しいソフトを形成していくことである。ヘビやトカゲなどの両生類、ネコや犬などの哺乳動物は生きるため以外には無用な殺生を働かないが、人間は時には善を、またあるときには極悪非道を繰り返す。それは、ブレーキ役の”ネコの脳”がその上位の”ヒトの脳”に支配されるからである。それだけ教育には、知的教育の重要性とそれに勝るとも劣らない徳力と体力の充実が求められる。現行の教育が求める「生きる力」の強化とは、知力が有する邪悪なよろいを取り去り、徳力と体力をより高度に発達・機能させることによってなされるのである。
平成年に入って現代っ子のこころやからだの未発達や不足の問題が各方面から指摘され、改善が叫ばれてきた。それにもかかわらず、具体的解決策が見えないばかりか、さらに自体は深刻化しているともいえる。しかし、子どもの今日的問題を憂い、直視し、自らの研究のフィールドワークとして取り組んでいる研究者や実践者も少なくない。
そこで本書は、前記のような教育の現状を把握しつつその具体的解決策について、これまで子どものこころとからだづくりに取り組んできたわが国の第一線の先生方に、それぞれの専門的立場から執筆をお願いした。[1部 こころを鍛える]では”やる気”を生み、育て、生かす具体的な方法論を述べ、[2部 からだを鍛える]では”行動する力”を生み、鍛え、持続させる具体例と留意点を示した。これは飽くまで基本的考え方であり、また一事例である。したがってこれらを基に、それぞれの学校や地域の対象者や環境に応じた具体的方法論を開発・発展させていただきたい。

2005.1.15
山地 啓司

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