姿勢の脳・神経科学 -その基礎から臨床まで-
姿勢の脳・神経科学 -その基礎から臨床まで-
ヒトの動きの神経科学シリーズ Ⅰ
編著者
大築 立志 (東京大学名誉教授)
鈴木 三央 (ボバース記念病院 リハビリテーション部)
柳原 大 (東京大学大学院総合文化研究科生命環境科学系)
著者
大槻 利夫 (長野県上伊那生協病院リハビリテーション課)
神﨑 素樹 (京都大学大学院人間・環境学研究科)
高草木 薫 (旭川医科大学生理学講座神経機能分野)
内藤 寛 (三重大学大学院医学研究科神経病態内科学)
平島 雅也 (東京大学大学院教育学研究科)
政二 慶 (Toronto Rihabilitation Institute)
書籍データ
【発行日】 2011年11月15日
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ヒトの動きの神経科学シリーズ 序文
人間は身体を動かすことによって行動し,自己を表現し,文化を創造しつつ生存している動物である.人間の日常生活は,歩く,走る,座る,立つ,持つ,投げる,道具を操作するなど,さまざまな動きによって初めて成立するものである.これらの身体運動は,脳を頂点とする神経系から発令される運動指令によって骨格筋が収縮し,骨格が動くことによって発現する.病気や怪我によって身体の一部分でも使えなくなれば,たちどころに日常生活に支障をきたすが,特に神経系の運動機能疾患は重篤な影響を及ぼす.一方,スポーツなどにおいて,運動の質を向上させるためには,筋力や持久力を事項状させるトレーニングとともに,神経系の機能を向上させるトレーニングが必要である.本シリーズは,人間の生活を構成する種々の行為について,人間と人間以外の動物との共通性と特異性を考慮しつつ,その基礎的メカニズムと臨床応用の方法を,主として脳科学,神経科学の観点からコンパクトに解説することを目的として刊行するものである.
シリーズ編集 大築 立志・鈴木 三央・柳原 大
序文
近代神経生理学の始祖Charles S. Sherringtonは,「姿勢(posture)とは運動(movement)に随伴する影のようなものである」と述べている.また,姿勢反射の研究で有名なMagnusは,「すべての運動はなんらかの姿勢(posture)から始まり,なんらかの姿勢となって終る」と述べている.脊髄反射を中心として運動神経生理学の基礎を築いたSherringtonの言葉は,姿勢を運動を陰ながら支えるものとして捉えているように見えるが,姿勢研究に命を捧げたMagnusの言葉は姿勢こそが動きを決めるものであると主張しているように見える.脳と運動の関係がまだあまりよく知られていなかった当時にあっては,反射が運動神経科学の主流であったのはやむを得ないところである.しかしながら,今日の神経科学は,2人の大先達のどちらか一方が正しくてもう一方が誤り,ということではなく,状況に応じていずれの考えも成り立つことを示している.今日では,随意運動に脳が深く関わっているとともに,姿勢にもまた脳が深く関わっていることが明らかになっている.最近,Taubertらは,週1日45分のバランスボードを使ったバランス能力トレーニングを連続6週間行わせ,MRIを用いて脳の構造的変化を調べた結果,前頭前野皮質の灰白質が有意に増加し,さらに白質が示す領野間の連携の変化もバランスパフォーマンスと有意な相関をもって変化することを示している.
本書は二足直立というヒトの生活の基本である姿勢について,その基本的メカニズムから,スポーツなどの随意運動との関係や姿勢障害の臨床などのさまざまな問題について,脳・神経科学の観点から解説しようとするものである.
編者代表 大築 立志