2024年版スポーツ栄養学最新理論
2024年版スポーツ栄養学最新理論
編著著
川中健太郎 福岡大学スポーツ科学部 教授
寺田 新 東京大学大学院総合文化研究科 教授
著者
飯塚 太郎 公益財団法人日本バドミントン協会 ナショナルチーム パフォーマンス分析スタッフ
池戸 葵 愛媛大学プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門 特定研究員
石橋 彩 東洋大学健康スポーツ科学部 助教
井上なぎさ フリーランス 公認スポーツ栄養士
鍛島 秀明 県立広島大学地域創生学部 准教授
後藤 一成 立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科 教授
塩瀬 圭佑 宮崎大学教育学部 准教授
藤田 聡 立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科 教授
松井 崇 筑波大学体育系 助教
三浦 征 福岡大学スポーツ科学部 助教
宮地 元彦 早稲田大学スポーツ科学学術院 教授
安田 純 東海大学健康学部健康マネジメント学科 講師
(五十音順)
書籍データ
【発行日】2024年11月26日
【ページ数】269
【版型】A5
はじめに
パリを舞台に開催されたオリンピック・パラリンピック2024も閉幕しましたが、日本選手の活躍が目立ちました(金20、銀12、銅13)。編者(川中)が大学院で研究を始めた頃に開催された1988年ソウルオリンピックでは日本選手団のメダル獲得はわずか14個(金4、銀13、銅7)であったことを振り返ると、遂に日本は世界屈指のスポーツ大国になったとの感慨もあります。これらは、様々な視点から実施されてきた戦略的なアスリート強化策の成果でしょう。そして、オリ・パラアスリート強化策の重要な一翼を担っているのが、スポーツ栄養サポート(アスリートに対する栄養サポート)です。
実は1988年ソウルオリンピック前に日本代表選手に対する食事調査が実施されましたが、8割の選手は栄養摂取不足の状態だったそうです。そして、ソウルでの惨敗を契機として、いくつかの競技団体が専門家に食事サポートを要請しました。合宿や海外遠征に帯同するなどして、要請に見事に応えた管理栄養士の奮闘努力があり、1990年代にスポーツ栄養サポートは徐々に広がりをみせます。2012年ロンドンオリンピックからは選手村近くに最終調整拠点「ハイパフォーマンスサポートセンター」を設置して栄養サポートを実施しています。スポーツ栄養サポートに関しては、この30年間で飛躍的に整備が進みました。また、その対象もアスリートだけでなくスポーツ愛好家まで、さらに、競技能力向上だけでなく健康増進までと幅が広がりました。
スポーツ栄養学の研究面を振り返りましょう。世界的には、1939年に運動生理学者であるErik Christensenが、運動前の高糖質食摂取が持久力を高めることを明らかにしました。そして、1967年にストックホルム体育大学におけるChristensenの教え子であるPer-Olof Astrandによって、グリコーゲンローディングが提唱されました。これらが現代に繋がるスポーツ栄養学研究の系譜の始りといえます。また、編者(川中、寺田)の留学先(ワシントン大学医学部・セントルイス)のボスであった運動生理・生化学者John Holloszyは、「疾病予防」の観点から骨格筋代謝(ミトコンドリアや糖取り込み機能など)を研究していましたが、得られた知見は持久力向上の仕組みを解明するものでもあり、アスリートのトレーニング方法に大きな影響を与えました。そして、2000年シドニーオリンピックでスポーツ医学への貢献が認められて、国際オリンピック委員会(IOC)からOlympic Prize(スポーツ科学者に贈られる金メダル)が贈られました(当時、Holloszy Labに在籍していた川中はHolloszy先生の嬉しそうな様子をよく覚えています)。身体の仕組みはアスリートも普通の人も同じであり、運動・食事が疾病を予防する仕組みは、それらがアスリートを強化する仕組みと基本的には同じだったわけです。このように「健康増進・疾病予防」ならびに「体力・競技パフォーマンス向上」の観点が相互に影響しあいながら、様々な分野の研究者の力によってスポーツ栄養学の研究は発展しました。
今回、スポーツ栄養の視点持って活動している国内の研究者のなかでも、2020年の東京オリンピック・パラリンピックイヤーに発刊されたものを全面改訂したものです。スポーツ栄養の視点をもって活動している国内の研究者のなかでも、2024年の東京オリンピック・パラリンピックイヤー以降の4年間に、特にユニークなエビデンスを発信している方々に本書の執筆をお願いしました。本書の特徴は、スポーツ栄養に関する「基礎知識」を解説するのではなく、「可能性の段階にある最新・最先端の研究内容」を中心に紹介することです。本書の読者には、スポーツ栄養学の最新研究動向を知りたいとの意欲にあふれるスポーツ栄養士や健康運動指導に関わる方が多いと想像しています。新しい食事・運動処方は新しい理論から生まれます。本書に書かれた最新理論を活かした新処方を、是非、指導現場で試してください。その結果、期待した成果が得られることもあれば、成果が得られないこともあると思います。いずれの場合にせよ、事例報告・症例報告として学会等で積極的に報告し、その情報を研究者と共有していただきたいと思います。この作業を介して、指導現場と研究者の間で情報のやり取りが行われ、理論の改訂が進み、「エビデンスに基づいたスポーツ栄養サポート」が確立します。それぞれ別個に発展してきた「スポーツ栄養サポート」と「スポーツ栄養学研究」を読者の皆さんの力で融合していただければ幸いです。
2024.9