ミトコンドリアトレーニング ―筋肉中心で考えるトレーニングサイエンス―

book0071

ミトコンドリアトレーニング ―筋肉中心で考えるトレーニングサイエンス―

(book0071)

編著者

八田秀雄 東京大学大学院総合文化研究科身体運動科学研究室 教授

著者

榎木泰介 大阪教育大学健康安全科学講座 准教授
加藤弘之 味の素株式会社スポーツニュートリション部
北岡 祐 神奈川大学人間科学部スポーツ健康コース 教授
髙橋謙也 東京大学大学院総合文化研究科身体運動科学研究室 助教
髙橋祐美子 東京大学大学院総合文化研究科身体運動科学研究室 准教授
竹井尚也 東京大学大学院総合文化研究科身体運動科学研究室 研究員
田村優樹 日本体育大学体育学科 准教授
寺田 新 東京大学大学院総合文化研究科身体運動科学研究室 教授
星野太佑 電気通信大学大学院情報理工学研究科 共通教育部
増田紘之 新潟医療福祉大学健康栄養学科 助教
松永 裕 久留米大学 人間健康学部 スポーツ医科学科講師
竹村 藍 東京大学大学院総合文化研究科身体運動科学研究室
見寺(吉田)祐子 金沢大学フロンティア工学類 微粒子システム研究室
向井和隆 日本中央競馬会 競走馬総合研究所
(五十音順)

書籍データ

【発行日】2024年予定

【ページ数】182

【版型】B5

【図表】107

目次はこちらをご覧ください

ミトコンドリアトレーニングという変わったタイトルの本ができました。どうしてこんなタイトルとなったのか少し説明させていただきます。私が運動生理学を学び始めたのは、大学3年生になった1980年です。その頃LT(当時はATという呼称が一般的)の測定が行われ始めていました。実習授業でそのメカニズムを学ぶ機会があり、「その閾値から酸素供給が足りなくなって無酸素運動になるので、血中乳酸濃度が上がる」という説明でした。それならばその閾値からは酸素摂取量が頭打ちになるのだろうと私は思いました。ところが説明では、「その閾値を超えても酸素摂取量は運動強度に比例して上がっている」ということです。これはおかしい!と思いました。酸素摂取量が運動強度に比例して上がるということは、どう考えてみてもその閾値から上の強度でも酸素は必要量が供給されているとしか思えません。また酸素摂取量が強度に比例して増加しているのに、その閾値から上が無酸素運動という説明自体が矛盾しています。この疑問は、私がその後乳酸のメカニズムに関する研究を継続してきた大きなきっかけとなっています。
大学院修士の時に動物実験を開始することになり、それで私は乳酸のメカニズム解明に関する研究を始めました。そこでまず困惑したのは、ラットやマウスの安静血中乳酸濃度が異様に高い、ということです。運動もしていないのに、ヒトの手や実験環境に慣れてなく興奮している動物から採血すると、安静の血中乳酸濃度が4―5ミリモルという、本来はある程度強度を上げた運動をしないと上がらないレベルに安静なのに動物の血中乳酸濃度が上がってしまいます。
この2つの例は、血中乳酸濃度の上昇を酸素供給だけで考えることはできないということをはっきり示しています。乳酸の産生を大きく決める糖の分解は、酸素供給に必ずしも関係なく、かなりアバウトに運動強度などの変化やストレスに対して大きく反応することがあると考えるのが妥当です。元々糖の分解をする酵素は細胞の中でも細胞質にあって、ミトコンドリアは進化の過程で後から細胞に入ってきたと考えられるわけですから、糖の分解が酸素供給にはよらないで、いわば独立して反応するようになっていると考えるのは自然ではないでしょうか。乳酸は糖を利用しようとするときに、細胞質で独立に糖が分解された結果としてできて、また同時に少しだけATPも供給し、そして結局はミトコンドリアで酸化利用されるエネルギー源です。乳酸ができる運動は無酸素運動ではなく、糖を多く使おうとしている運動ということです。
酸素摂取量は運動生理学の重要な柱であることは事実ですが、酸素摂取量はあくまで肺でのことであって、筋肉のことを直接全て反映するわけでは必ずしもありません。特に短距離走や中距離走のような高強度運動では、肺の酸素摂取量だけでは作業筋の代謝様相や酸素消費量は分かりません。またトレーニング効果についても、最大酸素摂取量が増加するかのみで考えて、筋肉の要素が考慮されないことも多いと思います。酸素摂取量によってすべて筋肉のことまで説明しようとすることには無理があります。筋肉では常に酸素も使ったATP産生が行われています。すべての運動は有酸素運動であって、無酸素運動といったものはあり得ません。そうすると筋肉のミトコンドリアが運動のエネルギー供給における中心になりますし、運動トレーニングによる効果の中でも大きな柱が、ミトコンドリアの量や機能が増えるということになります。
このような、これまでの研究生活でできてきた私の考え方から、運動とそのトレーニング効果についてまとめた本書のタイトルを、ちょっと変わってはいるが「ミトコンドリアトレーニング〜筋肉中心で考えるトレーニングサイエンス」になったのも、あるいはご理解いただけるでしょうか。

2024.1

八田 秀雄

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