子育てハンドブック 〜脳性まひ児とともに〜

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子育てハンドブック 〜脳性まひ児とともに〜

(book0065)

監修

大阪発達総合療育センター
鈴木 恒彦 社会福祉法人愛徳福祉会理事長 リハビリテーション科専門医,整形外科専門医
船戸 正久 センター長、小児科専門医,小児神経科専門医
川端 秀彦 南大阪小児リハビリテーション病院院長,整形外科専門医

執筆者

大阪発達総合療育センター
飯島 禎貴   小児科医
押川 龍太   言語聴覚士
大住 亮介   理学療法士
梶浦 一郎   整形外科医 社会福祉法人愛徳福祉会名誉理事長
曲  洋子   理学療法士
木村  基   作業療法士
木村 智香   理学療法士
河中真由美   理学療法士
河中 誉真   理学療法士
近藤 正子   MSW(医療ソーシャルワーカー)/看護師
阪口 和代   理学療法士
下平 花菜   言語聴覚士
須貝 京子   作業療法士
杉原 康子   臨床心理士
鈴木 恒彦   整形外科医
関口  佑   作業療法士
田井 宏冶   理学療法士
髙﨑  睦   作業療法士
出口 奈和   理学療法士
中島 るみ   作業療法士
長田 絵美   看護師
錦織  忍   作業療法士
濵田 浩子   言語聴覚士
馬場新太郎   理学療法士
飛地 洋美   作業療法士
彦田 龍兵   理学療法士
平原 珠美   HPS ホスピタルプレイスペシャリスト)
水野 里佳   保育士
山本 典子   言語聴覚士
米持  喬   作業療法士
(五十音順)

イラスト

彦田 龍兵   理学療法士

表紙絵

古屋 智予   学習指導員

書籍データ

【発行日】 2021年7月
【ページ数】168
【イラスト】多数

目次はこちらをご覧ください

本書を手にとられた皆様に

 この本は、脳性まひの子どもが自分で手足をうごかしたり移動したりして、機能的活動につながる能力を発達させようとする時に、それをどのように手助けすればいいのか困惑されている両親・ご家族に役立つように書かれたものです。絶版になった Nancie R. Finnie編著(梶浦一郎・鈴木恒彦共訳)の「脳性まひ児の家庭療育(原著第3版)1999年 医歯薬出版」を参考に大阪発達総合療育センタースタッフの総力を挙げて書かれています。
子どもを難しい課題に立ち向かわせながら学ばせるという、普通の子育てで誰でもする養育の手ほどきを使って、脳性まひの子どもが工夫された養育管理の中で学習してゆく様子が説明されています。毎日の決まった育児(課題)を行う際に、子どもを育てるご両親の役に立つように考えられたわかり易い内容で、特に大事なことは、子どもの異なった運動・動作から起こりがちな障害を避けて、親子で出来るだけたくさんの日常的経験を一緒に楽しめるようにも工夫されていることです。
自分の子どもが何らかの脳損傷を受け、そのために脳性まひと診断されたとわかれば、多くのご両親にとってはひどいショックであり、インターネットで脳性まひの情報を片っ端から探し続けたりして、パニック状態に陥るものです。そして心の中で“脳性まひって一体どんなもの?”、“どうやったら子どもを助けられるの?”、“脳性まひのことは何もわからないけど・・・なにが期待できるの?”などと自分を問い詰めることになるでしょう。クリニックを訪れて子どもの治療と養育担当の様々な専門スタッフにみてもらうことは、元気づけられると同時に少し怖いという気がするかもしれません。本書の医学的側面の章や両親が感ずる問題についての章を読んでいただければ、このような気持ちは自分達だけではないんだと、少しでもほっとした感じを持っていただけるかもしれません。また、脳性まひの子どものケアに対応できる多分野からの医療・療育チームのメンバー全員が、いつも養育(育児)の疑問に答えられるように待ち構えていてくれることが理解いただければ、少しでも元気づけられるかもしれません。
Nancie R. Finnieさんは、英国のボバース夫妻の下で脳性まひの療育に長年携わってこられた療法士です。私どもの施設は、ボバース夫妻の考えを学んで、我が国で初めて「脳性まひ療育はゼロ歳から」を実践してきた施設あり、今年で創立50周年を迎えました。実は「脳性まひ児の家庭療育(原著第3版)」絶版後に、私どもに寄せられた療育に関する多数のご質問やご意見、ご要望が多岐にわたりました。同種の解説書を出版することによって、これにお答えするつもりで、創立50周年を記念して今回本書「子育てハンドブック〜脳性まひ児とともに〜」の出版を企画しました。
脳性まひに対する適切な治療法に関する考え方は、この100年の間にいくつかの変遷がありましたが、治療プログラムを組んで早期介入を行うことは、60年前頃から出てきた考えです。出生前の脳損傷が、出生後にいろいろな障がいを大きくする脳性まひの病態に注目した英国のボバース夫妻が、治療的ハンドリングを赤ちゃんの時から養育に組み込む提言をしてから広まりました。当初は病院などの医療機関中心の医療サービスの提供でしたが、次第に家庭を基盤とした地域社会で行う考え方に変わってきました。けれども、その子を乳幼児期から大人になるまであるがままの唯一無二の人間として、総合的な発達の中で障害をとらえる子どものニーズへの全人的アプローチに考えの原点を持つことに変わりはありません。
どんな赤ちゃんでもお乳をのませたり、清拭・入浴・トイレをさせたり、抱っこされて移動することが連日同じように繰り返され、こういった育児作業は、母親の育児技能が備わる以前にどっと一挙に押し寄せるため、誰しもお手上げになるかもしれません。しかし、このような育児を通して芽生えてくるご自分と赤ちゃんの間のかえがたい絆がしだいに強まり、わが子が新しい事を覚えてくる度に報われた満足を感じて嬉しくなるのも事実です。同じような喜びは脳性まひの子どものお母さんにもあるはずですが、思ったように反応してくれない姿勢変化や異常に変化する筋緊張に困惑した中では、言われているような育児課題を繰り返すことが困難で、赤ちゃんが新しいことを覚える感動には至らないかもしれません。さらに育児作業のやりとりの中で、母子ともに一緒になって楽しく学習する機会が妨げられ、ご家族みんなで喜ぶ場面が少なくなるかもしれませんが、そこで行き詰まってはいけません。どこが問題かを考えましょう。
この本は、そのような課題にどう対応し解決する糸口を見つけてゆくかをご一緒に考え工夫し、本来の楽しい育児場面に変えてゆくヒントとハンドリングを提供することを最大の目標にしています。ここでいうハンドリングとは、直接的な治療の方法ではなく、両親が子どもの能力を引き出すために用いる扱い方、どのように手を差しのべるかのことです。子どもは治療時間内で新しく覚えた運動・動作を、適切なハンドリングの中で一日中練習して、一つの動作のある部分と他の動作を結びつけることが出来、その結果、自分の能力や達成できる分野が増える体験ができます。
このような方法で子どもの問題に取り組めば、ご両親は日常的な活動の中で子どもを扱うわけですから、限られた治療時間で得られた効果を生活の中に発展させられることになります。一人の脳性まひの子どもの生下時から大人になるまでの成長・発達を考えてみてください。病院での疾病治療がその始まりかもしれませんが、まもなく月齢に伴う養育環境が、やがて年齢に伴う教育~就労環境が重なって津波のように脳性まひの子どもとご家族の上に押し寄せます。この結果、医療チームのメンバーだけでなく、保育、教育、福祉、就労などの専門家からのお手伝いの必要も増してきます。この本はリハビリ処方を示しているわけではなく、ましてや子どもの治療を担当している専門の療法士の治療実践にとって代わろうとするものでもありません。この本の内容は、生後から5歳くらいまでの数年間を扱っているにすぎませんが、ここで述べる課題や活動は、その子が大人になり最終的に独立するために基本となる事柄です。大人までの成長過程に生じる様々な問題に、対応出来るような活動についての解説が本来求められることは十分承知していますが、ご両親が最も悩み困惑する始まりは、私どもの経験から生後からの数年間と考えるからです。
この本を手にとられた読者の皆様の動機は、きっと脳性まひ児の困難に突然向き合うことになったことに違いありません。そうした方々のために、初めに脳性まひの医学的側面をふまえた心構えについて最新の情報を提供し、その後脳性まひがどんな意味を持つかを述べています。読者の皆様には、是非、基本的知識の枠組みから、適切なハンドリングをご理解いただければ幸いです。
2021.5.
鈴木 恒彦

推薦文

児玉 和夫
公益社団法人日本重症心身障害福祉協会 理事長 センター長
 長きにわたりフィニー女史の「脳性まひ児の家庭療育」は、脳性まひ児がいるご家庭での子育てバイブルでした。関わるリハビリテーションのスタッフや医師にとってもご両親とともに学ぶ教材でした。日本語訳も1970年の第1版は7刷、1976年の第2版は25刷まで出されていました。1999年の第3版の発行数は知りませんが、非常に多くの人たちがこの本を手にしていたことがわかります。その本が絶版になるというニュースはとても残念でなりませんでしたが、今回訳者でもあった鈴木恒彦先生をはじめとする方々の手で後継本が出されることになり、私にとっては嬉しい限りです。
フィニーさんに私が初めてお会いしたのは1977年の秋でした。私はその年の10月から12月にかけてロンドンのボバースセンターで開催されていた、ボバース法8週間講習会に参加していたのですが、間を見てロンドン有数の教育医療病院であるガイ病院(Guy’s Hospital)を訪問しました。そこでは小児科のジョリー教授が主宰する発達支援センターがあり、フィニー女史はそこの責任者でした。
このセンターにはロンドン内外で脳性麻痺の子どもを持ったご家族が、総合的な評価や家庭での育て方、リハビリテーションの組み方などを求めて来られます。数週間のコースがあり、遠い方は宿泊しながら通います。コースの最後には各セラピスト、心理士やケースワーカーが加わったまとめのミーティングが開かれます。もちろん当のご家族に、居住地域のケースワーカーやセラピストも一緒です。議長役はジョリー教授です。このコースには必ず医学部の学生が加わっています。彼らはそれぞれ脳性麻痺のお子さんを担当し、医学的な評価とともに、この子たちが育つために何が必要かを学ぶのです。そこでいつも的確な説明をし、ご家族を励ましていたのがフィニー女史でした。それまで脳性麻痺児のリハビリテーションに取り組んでいた私でしたが、脳性まひの治療というより、脳性まひを持った子どもさんを育てる、ということの大事さを学ばせていただきました。
これに感銘を受け、1980年代初頭に私が勤務していた心身障害児総合医療療育センターにPTであるフィニー女史ともう一人ポーランドからのOTをお招きし、長期の講習会を開催しました。全国からたくさんのリハビリテーションスタッフと何人かの医師が参加しましたが、そこで多くの人が、脳性まひの子どもたちに必要な支援に必要な多くのことを学んだと思います。
私にとっては親子の関係の大事さ、感覚・知覚・認知の重要性などが強く印象に残っています。障害があるからリハビリテーションで正常に追いつく、というより障害について多くの支援を用意し、できる限りの経験を可能にしてあげる、そのためにご家族に知っておいてもらいたいこと、私たちが学ばなければならないことなどがたくさんあると思います。この本で執筆者となった先生方は、大阪発達総合療育センターで長く脳性まひのお子さんとご家族に接して来られています。その経験が活かされて、良き導きの書になってくれることを願います。
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