筋力発揮の脳・神経科学〜その基礎から臨床まで〜

book0053

筋力発揮の脳・神経科学 -その基礎から臨床まで-

(book0053)

ヒトの動きの神経科学シリーズ Ⅲ

編著者

大築 立志(東京大学名誉教授)
鈴木 三央(ボバース記念病院リハビリテーション部部長)
柳原 大(東京大学大学院総合文化研究科准教授)

書籍データ

【ページ数】 200頁
【図表】 図85 表22 写真24
【発行日】 2017年3月刊行

目次はこちらからご覧ください

はじめに

 身体の動きは物理現象であり、物理学的法則に従って実行されるものであるが、ヒトの身体の生理学的最終出力は筋が発揮する力、つまり筋力である。物理学的にいえば、力は加速度と質量の積であるから、筋力自体は質量に反比例した加速度しか生み出せない。加速度が積分されたものが速度になり、速度が積分されて位置変化(変位)になる。したがって、動きの速さや、動きの結果である変位のコントロールは、脳を中心とする神経系の働きによって筋力を様々に組み合わせることで実現する。いわば筋力は、脳と動きをつなぐキーチェーンであり、筋力発揮性能の良否は動きの良否に大きな影響を与える。
 病気や怪我からの回復や高齢者の生活においてまず必要なのは自分の身体を支え、物を持ち運ぶ筋力である。治療やリハビリテーションにおける筋力発揮能力の向上は、その後の動きの回復のために基本的に重要な課題である。病人やけが人でなくても、病人・怪我人・高齢者などの身体弱者の介助や荷物の持ち運び、家具の移動などをはじめ、あらゆる生活場面において、力は小さいより大きい方が有利である。スポーツでも、重量挙げをはじめ、陸上競技の砲丸投げなどの投擲種目、走り幅跳びなどの跳躍種目のように筋力の大きさが決定的に重要な競技があり、そのほかの競技でも最大筋力は小さいより大きい方が有利である。しかし、日常生活や労働作業やスポーツにおいてよい成績をあげるためには、最大筋力だけではなく適切な大きさの力を適切な時刻に出すといった臨機応変の筋力調節が必要不可欠であり、それはまた、身体エネルギーの効率的使用と疲労の軽減という観点からも重要である。
 このような様々な筋力発揮は、脳を中心とする神経の働きによってはじめて可能になる。ヒトは他の哺乳動物と相同の、個体の保存と種の保存という生物の目的に合致した身体の構造と機能を持っており、その脳もまたそのような構造と機能に合わせて進化してきたと考えられる。従って、繊細な筋力調節を要するヒト特有の精緻な手指動作のみならず、陸生哺乳動物に共通した素早く大きな体肢筋力発揮による全身運動についても、脳は重要な働きをしているはずである。
 日常生活では速度や変位のコントロールが作業成果に直接関係するため、神経科学でも速度や変位と脳との関係が着目されることが多い。そのため、筋力自体を対象とした研究が少ないきらいがあるが本書では、上述の観点から、ヒトの動きを生み出す基となる筋力そのものに焦点を当て、神経科学的観点から考えてみようとするものである。
 内容の大まかな区分としては、1章で筋力発揮の基礎的神経機構について、2-4章では筋力の随意調節、5-6章では動きのための筋力発揮、7-8章で筋力発揮能力の個体内変動(トレーニングと疲労)、そして9-12章で筋力異常を引き起こす神経障害とその治療についてまとめてある。
 本書がヒトの筋力発揮というものの神経科学的特性を再考するきっかけとなれば幸いである。
編者代表
大築 立志
在庫状態 : 在庫有り
¥3,300(税込)
数量