子どもの身体表現 ~からだとこころ・あらわしてあそぼう~

book0024

子どもの身体表現 ~からだとこころ・あらわしてあそぼう~

(book0024)

編著

西 洋子(東洋英和女学院大学人間科学部 教授)
本山 益子(京都文教短期大学児童教育学科 教授)

著者

相原 朋枝(前洗足学園短期大学幼児教育保育科 准教授)
秋田 有希湖(豊橋創造大学短期大学部幼児教育・保育科 講師)
岡本 雅子(豊橋創造大学短期大学部幼児教育・保育科 准教授)
高野 牧子(山梨県立大学人間福祉学部人間形成学科 准教授)
髙橋 うらら(東横学園女子短期大学保育学科 講師)
多胡 綾花(湘北短期大学保育学科 講師)
平野 仁美(元愛知県蒲郡市効率保育園副園長)

書籍データ

【発行日】 2009年4月8日
【判型】 B5
【ページ数】 142
【写真図表】 多数
【表紙デザイン】 タカハシタツロウ
【イラスト】 平野陽子

目次はこちらからご覧ください

はじめに

~“感性の覚醒”に向けた新しい援助を~

人の生涯のなかで,子ども時代は独自性の高いのびやかな季節(とき)です.子どもは身の回りの自然や他者と直感的につながり合い,その様子や思いを遠慮なく内に湛え,一方で惜しみなく外へ表し,そうした過程を繰り返しながら,自分と自分を取り巻く世界に対して深く豊かな意味を形成していきます.
しかしながら,長い年月を通して子どもの表現に寄り添ってみると,最近,子どもが生きた感覚で世界をとらえ,世界とつながり合う力が弱くなっているのではないか,子どもの感性のはたらきそのものが鈍くなっているのではないと感じることがあるのです.
私たちの生活環境はどんどんと変化し,それに伴って子どもの経験やあそびもまた,変わってきたからなのでしょうか.

例えば,テレビやインターネットがもたらす過剰で高速な情報のなかに生きる子どもは,それらを巧みに操る術を身につける代償として,どこまでも続く青い空に,たったひとつ浮かぶ白い雲の遅々とした流れを追い続ける時間感覚や,その形の微妙な変化から物語を紡ぐ素朴で力強い想像力を手放しているのかもしれません.輝く星空を「手にとるよう」と感じる暗い夜は,もはや都会の生活ではのぞめず,深い闇に感じる怖さや,その闇でこそきらめく星の美しさは,子どもが慣れ親しんだ場所では経験できない特殊な世界の出来事になりつつあります.あそびや生活をともにする他者が少なくなり年齢や生活状況が均質になることは,様々な差異にとまどいながらも多様性のなかに自己を位置づけ,個性を磨き合う機会を子どもから奪っているのかもしれません.私たちに快適な生活をもたらす人工的な空間は,夏の日の汗いっぱいであそんだ後の爽快感やのどを潤す水の清涼感を弱め,冬の日の拡散する白い息の不思議や氷の尖った感触を奪い去り,これまでは当たり前に経験できた多くの身体的な感覚を子どもから切り離していきます.
このように,私たちを取り巻く環境そのものの変化が,子ども本来の感性を鈍らせ,人の想像や創造の幅を狭める要因になっているとしたら・・・.一方で,子ども同様に鈍くなった大人の感性は,こうした事実にさえ気づかずに事態を見過ごしているとしたら・・・.どちらも,とても深刻な問題です.

子どもの表現を援助する私たちは,これまでは子どもが出会い,自ら切り出した世界を尊重し,そこで子どもが感じ・考えたことを音や色や形や動きで表すことができるように,ときに見守り,ときに励ましながら,少し先の未来が子どもにとってより豊かな意味の発見と形成につながるような教育的手立て講じてきました.しかしながら,現在の子どもが置かれている状況を省みるとき,これからの表現の援助者は,子どもがどんな世界と出会い,どのようにつながろうとしているのかを敏感に感じとらなければならないと思うのです.そして実際の表現の援助以前に,表現の土壌となる子どもの内面そのものを耕すことに,これまで以上に心を配る必要が生じてきたのです.

表現の援助の範囲を,表現以前にまで広げて考える場合に,どのような方法があり,それらが子どもの表現をどう促し引き出すのかについては,残念ながら今のところは十分な実践や検討が為されているとはいえません.そうであっても私たちは,子どもを取り巻く環境が著しく変化する時代のなかで,それぞれの子どもが,生き生きと自己が息づく表現に目覚め,また他者と照らし合い響きあう表現が子ども相互のかかわりから主体的に創出するために,“感性の覚醒”に向けた新たな援助への構想をはじめなくてはならないのです.そうした挑戦を進め,さまざまな試行錯誤を子どもと共有する過程でこそ,援助者自身の感性もまた,ゆっくりとひらかれていくのだと思います.
(西 洋子)

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