脳百話~動きの仕組みを解き明す~
脳百話~動きの仕組みを解き明す~
編著
松村 道一(京都大学総合人間学部自然環境学科教授)
小田 伸午(京都大学総合人間学部自然環境学科助教授)
石原 昭彦(京都大学総合人間学部自然環境学科助教授)
書籍データ
【発行日】 2003年10月16日
【判型】 B-5
【ページ数】 224
【図表】 110
【はじめに】
本書は、からだの動きに興味をもつ読者を対象として、中枢神経系と筋の働きを分かりやすく解説したものです。タイトルは何となく際物(きわもの)的なイメージを与えますが、最新の神経科学の成果を網羅した質の高い内容であることを了解して頂けると思います。神経科学や行動科学を学ぶ人だけではなく、運動能力を向上させたい人、リハビリテーションに関係している人、コーチや各種の療法士の方々にも推奨したいと思います。忙しくて神経科学の専門書などをじっくりと読んでいる暇がないという人に便利なように、短いトピックスを満載することにしました。
最近、C. Leonard博士の「ヒトの動きの神経科学」という本を翻訳出版したときに感じたことは、脳の一般的な解説書はたくさん出回っており、スポーツ生理学の専門書も数多く出版されているのに、運動に関係している脳のメカニズムを主体に解説した入門書がまったく見当たらないということです。単純な運動はいうに及ばず、スポーツの美しいパフォーマンスは脳の総合芸術ともいえますが、この華やかな表舞台を支える脳の機能はほとんど紹介されることがありませんでした。これが、本書の出版のねらいです。 トレーニングやリハビリテーションの実践に、脳のことなど知る必要はないと考える人もいないわけではありません。しかし、車が動くメカニズムを知っていれば、いざ故障したときの対処の仕方に大きな違いが出てくるに違いありません。同じことが、運動の神経機構の知識に関してもいえます。脳のメカニズムから考えて、理にかなったトレーニング法やリハビリテーション法があるはずです。
このような思いが私の胸中にあった時、ともに前回の翻訳の苦しみを味わったスポーツ科学専門の小田に声をかけ、筋・脊髄の環境適応が専門の石原を加えて、運動の不思議さを演出する神経・筋システムのメカニズムに関する簡単な解説書を出版することにしました。
本書の特徴・スタイルは、本文をざっと見ていただければ一目瞭然ですが、
- ひとつのテーマは見開き2ページの読みきりで構成されていること
- どこから読んでもよいこと
- テーマごとにわかりやすい図や表を付けたこと
- 関連するテーマを参照できるように配慮したこと
です。これはインターネットのユーザを意識して、ネットサーフィンと同じ感覚で本書を読み進めることができるように構成したことによります。気の向いたところから読み始め、興味のあるところへジャンプして、気ままに読み進めて下さい。文中に笑いあり、涙あり、感動ありとまではいきませんが、平板な味気ない解説はなるべく避けるようにしたつもりです。ちょっとした暇ができた時に、ご覧頂ければ幸いです。かといって内容に手抜きは一切ありません。できる限り最新の成果を取り入れたつもりです。
全体として基礎編・末梢編・中枢編・応用編と4部に分かれていますが、これは便宜的なものです。松村・小田・石原が相談して、読者の興味を引きそうなテーマをリストアップしました。内容が重複しているものもありますが、シェフの腕前によってまったく違った味わいに仕上がっているので、それはそれで楽しみにしていただきたいと思います。各テーマの文章は、3つの研究室の大学院生が担当しました。彼ら自身が担当したいテーマを自主的に選んでくれたので(必ずしも原則どおりでないことを内部告発している大学院生もいますが)、それぞれが彼らの専門に適した自信の競作であると信じています。彼らはいつも研究の最先端にいて、最も新しい論文や情報に接していますので、その鮮度は他の本の比較にならないといえます。もちろん我々3人が、内容・表現など全ての面でチェックを行いましたので、最終的な責任は松村・小田・石原に帰するところです。我々3人の役割は、院生たちの無添加・本場ものの料理に、わずかばかりのスパイスを加えたに過ぎません。この場を借りて院生諸君の労をねぎらうとともに、そのバラエティに富んだ力作を世に問う意味で、各項目の文末に担当者の名前を記しました。
京都大学総合人間学部認知情報学系
代表 松村 道一・小田 伸午・石原 昭彦